忘れられない人

YA2ch!は各2chまとめブログにまとめられたスレッドを探し出し元の2chスレッドへ反映させて表示させることのできる2chログビューアです。
作った人: @h_i_o_k_i

表示中: -/78 クリア
1 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (1/35)
長くなりそうなのでこちらに移ってきました
前スレ
http://hayabusa3.2ch.sc/test/read.cgi/news4viptasu/1481639299/

前スレの>>417のレスからの続きです
流れは前スレから追ってくれたらと思います
2 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (2/35)
俺「あ、浴衣で二人乗りはさすがに危ないかな」
吉谷「いまさら何言ってんだww」
吉谷に、大げさに笑われた。

荷台によろよろと腰掛けたヒロコは、やっぱり少しおぼつかなかった。

吉谷「そんなに怖かったら、ヒロコちゃん1にしっかりつかまってな」
吉谷がそうアドバイスすると、ヒロコは俺の腰あたりに思い切りつかまった。
3 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (3/35)
俺「マジかwwwwww」
びっくりして、変な声が出てしまった。
さすがに照れくさくてしょうがないので、すぐに「急ぐよ!」と言ってペダルを踏んだ。

すっかり日が暮れて、橙に溶け込んだ町の中を思い切り走った。
二台の自転車の影が、ぼんやりと長く伸びる。
どこからともなく、寂しげにヒグラシの鳴く声が聞こえた。

しばらく走ると、あのひらけた県道にぶつかり、下り坂になった。
4 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (4/35)
吉谷「一気にいくぞ」
吉谷は、立ち乗りになり思い切り速度を上げた。
ヒロコに、「飛ばすよ!」と一言声をかけ、俺もそれに続いた。

広い県道の下り坂を、一気に駆け下りていく。
途中、何台かの車にもすれ違ったが、そんなのお構いなしに、
俺たちは全力で走り続けた。

しばらくすると山道の雰囲気は薄れ、遠くにふもとの町が見え始めた。
遥か彼方には、橙黄色に光を放つ太陽も見えた。
そのせいもあってか、町のすべてが夕暮れに呑み込まれていた。
5 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (5/35)
信号機、街路樹、すれ違う車、目に映る全てがオレンジで、
町中まるごと影が伸びていくような気がした。

俺「もうすぐ、着きそうだな」
走りっぱなしで、全身から汗が吹き出していた。

吉谷「まだ時間的には大丈夫だ、急ごう!」
吉谷も息を切らして自転車をこいでいた。

吉谷「お祭りって、確かお寺の近くだよね」
ヒロコ「うん。駅に近いから、看板の駅方面に向かえばいいと思う」
6以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:gS0O9RraO (1/2)
前スレから追いついたけど面白いねー
支援!
7 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (6/35)
それを聞いて「よっしゃ!」ともう一度思い切りペダルを踏んだ。
ひたすら道を下っていると、次第に町並みが変わっていき、
市街地のような場所に出てきた。

言われていた駅の前を過ぎ、ヒロコに促されるままお寺方面を目指した。

寺に近づいてくると人々の往来も増え、浴衣を着ている人や、
子どもの姿も目立ってきた。
お祭りの、浮かれた雰囲気が広がっていた。

交通整備の人が誘導灯を振って、人や車を捌いている。
8 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (7/35)
吉谷「よし、着いた!」
俺「間に合った間に合った!」
俺たちは息も切れ切れに、自転車置き場に自転車をぶち込んだ。

ヒロコが駆け出し「早く早く!」と急かしている。

すっかりバテバテの足を引っ張って、それに付いて行く。
俺「受付って、どこでできるのさ」
ヒロコ「多分、奥に運営のテントがあるから、そこ」
9以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:3MW+u5AAo
町中まるごと影が伸びていくような気がした
↑読んでてあぁ〜ってなったわ
光景が目に浮かんだよ、すごい
10 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (8/35)
寺の敷地内に入ると、そこら中に屋台が立っていた。
焼きとうもろこしやたこ焼きだの、醤油を焼いたような香ばしい匂いともに、
「いかがっすかー」という威勢のいい声が四方から響いている。

人の数も多く、走って進んでいくには、少し厳しかった。
それでもヒロコは、人混みをかき分けどんどん進んでいった。

はぐれたらヤバイと思い、俺も吉谷もヒロコを必死に追いかけた。
11 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (9/35)
進んでいくと広場に行き着き、寺の本堂のようなものが目の前に見えた。
横には、派手に電飾の飾りが施されたお手製ステージのようなものがあり、
見上げると、「夏祭りフェスステージ」と看板が掲げられていた。

ヒロコはそれに構うこともなく、本堂の脇にあったテントへと、
一直線に向かっていった。

思った以上にしっかりとしたステージに少々驚いてると、
「二人ともこっちだよ!」と、ヒロコに呼ばれた。
12 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (10/35)
運営テントの中では、ハッピを着たスタッフが慌ただしく動き回っている。
何人かのスタッフと会話をし、受付の手続きを済ませる。
「ぎりぎりでしたね」と笑われてしまった。

スタッフ「グループ名が無しになっていますが、このままでいいですか?」
それを聞いてヒロコが俺と吉谷の方を見たので、「あれでしょ」と助言した。

ヒロコ「バンド名は、『THE SUMMER HEARTS』でお願いします」
13 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (11/35)
スタッフは「いい名前ですね」と笑って書面を訂正していた。
その後、どういう編成でどんな曲をやるかの説明を行った。

俺「あ、そうだ。マイクを2本用意してもらってもいいですか」
出し抜けに言ったので、吉谷が不思議そうに俺の方を見た。

吉谷「なんで2本?」
吉谷の質問に答えず、俺は「ヒロコ、いい?」と、ヒロコの顔を見つめた。
14 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (12/35)
俺「マイク用意するから、歌いたくなったら歌いな」
俺「ハモリとかコーラスとか、そんなんじゃない。歌いたいとこで歌えばいい」
俺「言ってたろ? ブルーハーツを聴いてると元気になるって」

吉谷は「なるほどね」と納得した様子で頷いていた。

俺「だから、ヒロコも思い切り歌うんだよ。ステージの上で」
俺「それって、楽しそうだろ?」

ヒロコ「ほんとうに? あたし歌ってもいいの?」
ヒロコの顔に、笑顔が訪れた。
15 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (13/35)
俺「もちろんだよ。俺と一緒に歌おう」
俺「ギター弾きながらだと難しいと思うけど、歌いたいとこだけでいい」

そう言うと、「あたし、頑張るね!」と両手を元気に振り回した。
その表情は嬉々として、まるで夏休み前の小学生みたいだった。
そんな無邪気な顔が、青色の鮮やかな浴衣にぴったりだった。

期待とワクワクと、ほんの少しの緊張。
そんなものが入り混じっていたんだと思う。
16 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (14/35)
スタッフ「リハーサルはないので、直前に簡単に調整を行います」
スタッフ「7時にはステージが始まりますので、出番は多分7時半過ぎくらいかと思います」

その後、俺たちは運営テントを後にし、広場の隅のベンチに腰掛けた。
広場を囲うように、周辺には無数の出店があり、
頭上にはいくつもの提灯が揺れていた。

日はすっかり落ち、それらの賑やかな灯りでお寺の中は彩られていた。
17 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (15/35)
暗い世界に、楽しげな灯りがいくつも揺れている。
どこからともなく、子どものはしゃぐ声が聞こえた。
まさしく、夏祭りが始まったんだな、と実感した。

ヒロコは出店を見てくると言って、一人で入口通りの方に行ってしまった。
ベンチには、俺と吉谷の二人だけが座っていた。

吉谷「なあ、一ついいか」
俺「なんだ?」
18 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (16/35)
吉谷「渚のこと、黙ってて悪かったな」
「ああ……」と中途半端なニュアンスで返事をしてしまう。

吉谷「隠してるとか、そんなつもりじゃなかった」
吉谷「でも、俺も好きで……どうしようもなくなって」
吉谷「もっと早く、勇気を持って言えばよかった。ごめん」

通り過ぎる人の笑い声とか、出店で焼きそばを焼く景気の良い音とか、
なんだか色んな音が聞こえた気がした。
19 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (17/35)
俺「別に、俺も怒ってるとかじゃない。吉谷がそう言ってくれてよかった」
俺「これで、きっぱり諦めがつくし。俺も次へ踏み出すだけだよ」

吉谷「…そうか」

しばらく会話が途切れて黙っていると、ヒロコがはしゃいだ様子で戻ってきた。
傍目から見ても、浮かれているのがすぐに分かる。
嬉しくて仕方ないのか、その表情は屈託のない笑顔だ。
20 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (18/35)
ヒロコ「ねえねえ!すごいよ! なんか色々あった!」
落ち着かない様子で、通りの方を指差す。

俺「まあ、お祭りだからねぇ」
ヒロコ「すごいねすごいね!」

ヒロコの楽しさが伝わってきて、こっちまで笑顔になってしまう。

俺「何か買ってくればよかったのにww」
ヒロコは唇を噛み、首を横に振った。
ヒロコ「お金ないし、我慢だよ」
21 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (19/35)
吉谷が、小声で(行って来い)と俺の背中を叩いた。
「ええ?」と戸惑っていると、(いいから)と釘をさされた。

俺「ヒロコ、おごってやるから一緒に行こうぜ」
ヒロコ「え、いいの?」
ヒロコはそう言うと、吉谷の方を見た。

吉谷「俺はここにいるから。二人で見てきな」
22 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (20/35)
ヒロコと二人で、寺の入口通りを歩いた。
道の両側を埋め尽くすように出店が立ち並び、
慌ただしく人々が往来していた。

俺「そうだ、下駄履かなくていいの?」
ヒロコ「あ、そうだったね」

ヒロコはその場で袋から下駄を取り出し、履き替えた。
その際、背負っていた重そうなギターは俺が引き受けた。
23 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (21/35)
「下駄なんて初めて履く!」と興奮しながら、
ヒロコは俺の数歩先を元気よく歩いて行く。

その度にカランカラン、と小気味良い音が響き、
一歩、また一歩と夏の終わりに近づいていくような気がした。

「へいお兄ちゃん、見てってね!」

焼きとうもろこし屋のおっちゃんに、声をかけられた。
24 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (22/35)
醤油を焼いた、食欲をそそる香りが伝わってきた。
食べたい。正直腹が減った。

ヒロコも並べてあるとうもろこしを見て、「うまそ……」と声を漏らした。
その様子に笑って、「買う?ww」と聞くとヒロコは何度も頷いた。
でもすぐに、「我慢する。悪いし……」なんて言うもんだから、
「食べたいなら我慢すんな」と、ヒロコの分も一緒に買ってあげた。
25 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (23/35)
二人して焼きとうもろこしにかじりつくと、
醤油の香ばしさともろこしの甘さが口の中に広がって、
「うまーー!!」と自然に声が出てしまった。

それがおかしくて俺もヒロコも笑いが止まらなかった。

ヒロコ「これがお祭りの味! すご!!」
ヒロコのリアクションは本当にオーバーで、
それが本当に可愛いと思ってしまった。
26 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (24/35)
ヒロコは焼きとうもろこしも食べ終わらないうちに歩きだして、
「ねえねえあっちも!」と俺を急かした。
ついて行った先の出店には小さな子どもが群がっていた。

ヒロコ「ねえねえ、わたあめだよ!」
ヒロコは興奮した様子で、わたあめを作る機械を食い入るように見つめていた。
俺は「はいはい」と笑いながら、わたあめを二つ買った。
27 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (25/35)
わたあめ屋のオヤジが気さくな人で、
「浴衣似合ってるじゃん」なんて調子良く言ってきて、
ヒロコは照れながらも「どうも」と嬉しそうだった。

ヒロコ「わ、なんか今あたしやばいかも」
両手にとうもろこしとわたあめを持って、にやつく。
俺「なんか、めっちゃはしゃいでる人みたいだww」
28 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (26/35)
ヒロコ「ま、はしゃいでるけどね」
ヒロコはうっとりと両手のもろこしとわたあめを見つめたあと、
俺の方を見て意味もなくにこりと笑った。

その笑顔が、俺の心臓を叩いた気がした。
ヒロコが楽しんでいることが嬉しくて、
でもこの気持ちは、きっとそれだけじゃないんだろうなと思った。
29以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:gS0O9RraO (2/2)
夏祭り、いいなぁ…
すごく夏に戻りたくなってきた。
30 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (27/35)
吉谷のために焼きそばを買って、広場に向かって二人で歩いていると、ヒロコが話し始めた。
ヒロコ「あたしね、お祭りって嫌いだったの」
俺「どうして?」

ヒロコは一口とうもろこしに噛み付いたあと、続ける。

ヒロコ「だって、みんなすごく楽しそうだから」
ヒロコ「そういうのって、なんて言うんだろう……すごく嫌いだった」
31 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (28/35)
ヒロコ「変だよね。……ごめん」
しばらく考えて、優しく答えた。
俺「ううん、なんか分かる気がする。謝ることないよ」

ヒロコ「そう言ってくれると思ったけど」
ヒロコの表情に笑顔が戻った。

ヒロコ「でもね、今日はすっごい楽しい。だからね、お祭り好きになったかも」
俺「おお! それなら良かった」
32 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (29/35)
しばらくして広場にたどり着くと、
ヒロコは「焼きそば!」と声をあげ吉谷のもとへ走っていった。

広場には、先ほどより随分人が集まってきていた。
「夏祭りフェス」の始まりが迫っていたのだ。

このお祭りのステージでは、バンドや楽器だけではなく、
ダンスや漫才、歌など、舞台上で出来ることならばなんでもOKだった。
その物珍しさに、地元の人がそれなりに集まってきているようだった。
33 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (30/35)
広場のベンチに腰掛け、三人で駄弁って物を食べていると、
「夏祭りフェス」が始まった。
「みなさん、今年も始まりました!」
意気揚々と司会のお兄さんが口火を切り、広場内に拍手が巻き起こった。

ステージ上で歌を歌う女子高生や、ダンスを踊る大学生、
おじさんだらけのバンドなど、色んな人が思い思いのパフォーマンスをする。
34 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (31/35)
しばらくすると、勉強を終えてバスでこちらに来たクラスメイトたちが、
続々と広場内に姿を現した。
武智と元気が寄ってきて、「かなり盛り上がってるじゃねえか!」と話しかけてきた。

委員長と渚も近づいてきて、ヒロコの浴衣の乱れを直していた。
それだけではない、クラスの半数以上の人が見に来てくれているようだった。

ステージ上の人が目まぐるしく入れ替わっていき、どんどん俺たちの出番が迫ってくる。
35 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (32/35)
武智「あとどれくらいでお前たちの出番?」
吉谷がプログラムらしき紙を見て、「次の次……だな」と言った。
それを聞いて、緊張がピークに達した。

胸の鼓動は破裂しそうなほどに音を立て、手が小刻みに震える。
それは俺だけではないようで、ステージを見つめる吉谷の表情も強張っていた。
でも、ヒロコだけは違った。
36以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:7K2vpj9to
追いついたけどなかなか読ませるね
遠い遠い夏の世界を垣間見てる気分
37 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (33/35)
ヒロコ「ね、いい感じ?」
立ち上がって、両手を広げて浴衣を見せてきた。
近くにいた渚が「可愛いよ」と言った。

ヒロコは満足そうに「ありがとう」とお礼を言うと、
「二人とも、なに緊張してんの」とはつらつとした態度で笑みを浮かべた。

ヒロコ「あたし、今すごく嬉しい」
38 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (34/35)
ヒロコ「だって、こんな素敵なステージでライブができるんだもん」
ヒロコ「ずっとずっと思ってた夢だから、嬉しい」
ヒロコ「だからさ、今日は三人で、夢を叶えよう」

ヒロコはそう言うと、少しもったいぶるように笑顔を見せた。

吉谷「よーーっしゃあああ!!」
突然吉谷が大声を出した。
39 ◆od.mCbJyhw [] ID:oVMLduBOo (35/35)
委員長「うわ、どうしたの」
武智「気合が入ったかwwww」
吉谷がここまで感情を表に出すのは珍しいので、周りにいた人も驚いた。

吉谷「そうだよな! 思いっきりやって、夢を叶えよう!」
どうやら、吉谷は吹っ切れたようだ。

俺も真似して、「うおおおおお!!」と叫んだ。
するとヒロコも、「わああああああ!」と続けて叫んだ。
40 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (1/24)
元気「気合入ったねぇww」
武智「なんだか青春って感じだな」

大声で叫んだら気持ちのモヤモヤが吹っ飛んで、少し落ち着いた。

その直後、運営テントから「THE SUMMER HEARTSの皆さん来てください〜」と集合がかかった。
クラスメイトたちが、「頑張ってね!」「盛り上げるからなー」と手を振って見送ってくれた。
41 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (2/24)
スタッフ「それでは、今ステージに上がっている人たちが終わったら、皆さんの出番ですので」
ドクン、ドクン、と鼓動の音が何度も響いた。
来る。もうすぐ出番が来る。

吉谷「大丈夫。土台は俺が固める。二人は好きにやれ」
吉谷は笑顔混じりで言った。
俺とヒロコは黙って頷いた。
42 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (3/24)
前の人たちの出番が終わり、司会の男性が、俺たちの名を呼んだ。
「それでは次は…バンドですね!『THE SUMMER HEARTS』の皆さんです!」

ステージに上がる直前、ヒロコが俺の肩を叩いた。
ヒロコ「一緒に歌おうね」
ヒロコ「終わらない歌」
43 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (4/24)
ステージに上がると、ヒロコと吉谷は楽器のセッティングを始めた。
俺も、二本用意されたマイクの確認を行う。

ステージ上から広場を見下ろすと、思っていた以上に多くの観客がいることに気付いた。
何人もの人の目が、自分たちに向けられていることが不思議だった。

目の前には、クラスメイトが何人も陣取っていた。
何やら歓声を送ってくれていた気がするが、それも定かではない。
44以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:o5nUPK2qO (1/4)
どきどき
45 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (5/24)
楽器やマイクの調整が終わり、三人で顔を見合わせた。
「1、2、1、2、3!」
吉谷の合図とともに、演奏が始まった。

ジャジャ! ジャジャ! ジャージャージャーン!
「終わらない歌を歌おう! クソッタレの世界のため!」
出だしがガツンと噛み合って、俺は思い切り声を絞り出した。
46 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (6/24)
「世の中に冷たくされて 一人ボッチで泣いた夜」
「「もうだめだと思うことは 今まで何度でもあった!」」

声が重なった気がして、瞬間的にヒロコの方を見た。
すると、ヒロコもマイクに向かって声を出していた!

「「ホントの瞬間はいつも 死ぬ程怖いものだから」」
「「逃げだしたくなったことは 今まで何度でもあった!」」
俺とヒロコの声が二重になって、広場に響き渡った。
47 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (7/24)
「「終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため」」
「「終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように」」

俺たち三人の演奏はあっという間に終わった。
目立った失敗はなく、大成功だった。
でもそれは、演奏というよりは「終わらない歌」という歌に合わせて、
それぞれの「想い」とか「迷い」とかをぶつけたような気がした。
48 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (8/24)
ヒロコと二人で歌った瞬間、俺はそんなことを思った。
ヒロコがあの一節を一緒に歌ったのも、きっとそういうことなんだ。

ステージから降りると、クラスメイトが集まってきて、
「良い演奏だったなぁー!」と俺たちを囃し立てた。

演奏に全てを出し切った俺たちは、それに対応する気力も残っていなかった。
ただただ、「ありがとう」と返すしかなかった。
49 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (9/24)
ステージでのライブを終えたヒロコは、いたって落ち着いた様子だった。
もっともっとはしゃいで喜びまわるかと思ったが、そうでもないようだった。

俺「ヒロコ、楽しかった?」
吉谷「演奏、完璧だったよ。本当にすげえ」
俺と吉谷が、ヒロコを労うように言葉をかけた。

ヒロコ「あたし、二人のこと大好き」
俺「え?」
あまりに予想外の返答に、どう反応したらいいか分からなかった。
50 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (10/24)
ヒロコ「大好きな人たちと一緒にバンド組めて、そんでこんないい場所でライブできて」
ヒロコ「こんなにいっぺんに夢がかなって……」
ヒロコ「あたし、どうしたらいいか分かんない」

ヒロコはそう言い終えると、ぼろぼろと涙をこぼし、
「うえええん」と声をあげて泣き始めてしまった。
51 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (11/24)
ヒロコ「ごめんね、こんなこと初めてだから」
ヒロコ「夢って、かなうんだって思って。それが信じられなくて、嬉しくて」
ヒロコ「ありがとう……」

ヒロコは鼻をすすり、涙目で俺たちを見た。

吉谷「まあ、そんな大した協力もできなかったけどさ…とりあえず、楽しかったよな?」
吉谷はそう言うと、俺を見た。
52以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:o5nUPK2qO (2/4)
ヒロコ、、
53 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (12/24)
俺「うん、ヒロコとバンドができて楽しかった」
俺「俺たちは、ただ楽しいと思ってやってただけだから」
俺「それでヒロコの夢を叶えられたなら、本当に良かった」

すると突然武智が近づいてきた。
武智「サマーハーツ最高だったわー!!」
俺の話を遮って、三人の輪に入り込んできた。

吉谷「お前、邪魔すんなよwwwwww」
武智「何が!?」
54 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (13/24)
ヒロコはそんな様子を眺めて、泣きながら笑っていた。
満面の笑顔だった。

夜も深まり、熱を増す夏祭りの喧騒の中で、
ヒロコは笑っていた。

本当に文句のない笑顔で、俺はきっと、その笑顔が好きだった。
55 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (14/24)
合宿7日目。東京に帰る日が来た。
この日もご多分にもれず、カンカン照りの暑い日だった。

ずっとここにいるような気がしていたけど、
やっぱり一週間なんて本当にあっという間だった。

バスが出発する少し前に、ヒロコが宿に訪れた。
宿舎の裏口から委員長が必死に俺を呼ぶので、
何事かと思ったらヒロコが来ていたのだ。

先生の目もあるし、と凄く急かされた。
56 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (15/24)
別れ際に会うと辛くなってしまうので、できれば会いたくなかったけど、
やっぱりそうもいかなかった。
ヒロコは、俺を見つけると柔らかな笑顔になった。
その笑顔を見ると、心がきゅっと締め付けられる気がした。

ヒロコ「東京、帰っちゃうんだね」
俺「そうだね。今日までだから……」

ヒロコ「これからも、ブルーハーツは聴くの?」
俺「うん、きっとね。好きだしさ」
57以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:o5nUPK2qO (3/4)
なんだろう、胸がムズムズする
58 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (16/24)
どうしてなのか、これまでのように会話が盛り上がらない。
どことなく、やるせなさを感じた。

俺「ヒロコは、これからどうするの?」
ヒロコ「これから? あたしの?」
俺「うん」
ヒロコ「実はあたし、中学卒業したらママの実家の方に転校するの」

宿舎の裏側は日陰になっていたものの、頭上には青々とした空が見えた。
遠くに、わずかだが雲が見えた。
59 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (17/24)
俺「そっか。ここからも離れちゃうんだね」
ヒロコ「そうなの。1は? 1はどうするの?」

そう訊かれて、ちょっと考えた。
何か取り繕うと思ったけど、今の自分をありのままに伝えることにした。

俺「俺はきっと、東京の大学に行くと思う。何になりたいかとか、全然分からないけど」
ヒロコ「そっかあ、やっぱり東京にいるんだよね」
60 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (18/24)
ヒロコ「それなら、あたしも東京の大学に行く」
ヒロコ「あたし馬鹿だけど、頑張って勉強して、東京の大学に行く」
俺「本当に?」
驚いてそう尋ねると、「これでも国語だけはなんとかなるんだから」と苦笑いした。

ヒロコ「もしそうなったらさ、その時1は大学4年であたしは大学1年だよね」
俺「ああ、全部上手く行けば……そうなるなぁ」
ヒロコは「だよねだよね!」と嬉しそうに体を揺らした。
61 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (19/24)
ヒロコ「ねえ、そこでまた『THE SUMMER HEARTS』作って、一緒にバンドしない?」
一瞬冗談のようにも聞こえる話だったが、ヒロコの表情は真剣そのものだ。

ヒロコ「あたしは、1の歌が好きなんだよ」
俺「またそれは、随分壮大な話だね……」
ヒロコ「あたしは絶対勉強して追いつくから!」

そう言って、ヒロコは俺にピックを差し出した。
俺「これ、なに?」
62 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (20/24)
ヒロコ「あたしが使ってたピック。あげたんじゃないよ、ただ貸してあげるだけ」
俺「え? 貸すって?」
そう尋ねると、ヒロコは「ふふ」と笑みをこぼした。

ヒロコ「あたしが東京の大学に行った時、返してもらうから。それまで持ってて」
ヒロコ「絶対なくしちゃダメだからね」
「そういうことかよ〜」と笑ってしまった。
63 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (21/24)
ヒロコ「その時はまた、一緒にバンドしようね」
俺「分かったよ、きっとね」

ヒロコと俺は、そんなやり取りをして別れた。
実現するかも分からないような夢見がちな約束だったと思う。

でもこの時は、ヒロコも俺も、信じていればきっとそういう未来が訪れると思っていた。
64 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (22/24)
俺は今、大学4年の冬を迎えたが、あれからヒロコとは一度も会っていない。
あの子が今どこで、何をしているかも、正直知る術はない。
きっと、もう二度と会うこともないだろう。

願わくば、今もきっとどこかで、バンドをしていたらいいのになと思う。
あの時のまま、バンドに憧れて、大好きな仲間と一緒に楽しくギターを弾けていたらいいのになと思う。
変わらず、あの笑顔のままで。
65 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (23/24)
あの夏の一週間のことは、ずっと忘れられない。
ヒロコは、あの夏の記憶の片隅にいて、ずっと笑っている。

今も俺は、カラオケで『終わらない歌』を入れるたび、夏祭りの熱気と、あの女の子の笑顔を思い出す。
『THE SUMMER HEARTS』の思い出とともに。
66 ◆od.mCbJyhw [] ID:GsaCylkfo (24/24)
ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。
この話は私、富澤南の創作でした。

https://twitter.com/Tomizawa_2ch
スレはいつか落ちてしまうので、↑のTwiterにて、ご意見やご感想もお待ちしています。
ありがとうございました。
67以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:o5nUPK2qO (4/4)
偶然見つけて夢中で読んでたけどそうだったのか!!
めちゃくちゃ面白かったわ〜
ありがとう!
68以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:rKoC1RX7O (1/2)
夏の話を書かせたらやっぱり上手いんだねぇ
前のバレーの話もすごく好きだった
感動したよ おつかれ
69以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:z2dI4FpJo
おええええ
最後まで読んで良かった
ふざけんな!と言いたいが、、
正直心を洗われたよ
最近仕事で心が死んでたから創作でもこんな物語が読めて幸せだったよ
70以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:rKoC1RX7O (2/2)
それにしてもすごいな
スレに立ち会えたことに感激だわ
71以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:vms1MN58o
おつ。楽しかったよ
今更だけど、出てきたブルーハーツの曲まとめとく
ほんとにいい曲だね
https://youtu.be/cvFNEGD2-fY
https://youtu.be/VrHIUIqrP7U
https://youtu.be/d7yQHNntX4I
72以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] ID:rKLe0XHao
良かったわー
漫画とかで見てみたいな
西森博之あたりの画風で想像してた
73以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [] ID:ekl7XxMcO
いつも楽しませてもらってます♪
74以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] ID:JHNG2sKWo
好きなこと好きなようにやれることの素晴らしさを感じた
大人になったらそうはいかないよな…
そういうのも暗に示した終わり方、だったのかも?
面白かったよ
75以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] ID:DPtiWhvbo
偶然見つけたけど面白かった
年明け早々いいもん見れたわ
ありがとな
76以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] ID:Es/T2heao
高校の頃に戻りたくなる話だった
同窓会とか、もう何年も行ってないけどな…
おつかれ
77以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] ID:fbSFBzBQo
めっっちゃ良スレだったわ
正月の時間全部持ってかれたけど、逆に正月の暇つぶしにもってこいだったわ
ありがとなーー
78以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] ID:jx7tv4ZUO
パー速ふらついてたらいい話見つけたわ
ありがとね、他のもいくつか見たよ
もっともっと書いてほしいわ
レス表示順

おすすめ

まとめブログ解析

まとめられたID検索

まとめブログがまとめた板集計

板毎のまとめたブログ集計

アフィ語変換ツール

ホットエントリー